丁寧な矯正治療が、長持ちする「かみ合わせ」を作る

最近、「マウスピース矯正で6〜8ヶ月で綺麗になった」中には「マウスピース矯正で3か月で綺麗に治った」などという広告を目にされたことがあるかもしれません。今まで何年も、もしくは10年、20年以上、ずっと悪かったかみ合わせが数か月で治って、そしてずっとそのかみ合わせが長持ちすれば、素晴らしいことですよね?私もそんな矯正治療があれば受けてみたいと思います。でも、ちょっとお待ちください。手軽さに惹かれるお気持ちはよく分かりますが、矯正歯科医の視点から、大切な「かみ合わせの安定性」に関わるお話をさせてください。

「見えている部分」だけを並べるリスク

基本的に、マウスピース矯正と、私たちが主に行っているワイヤー矯正は、アプローチが全く異なる治療法です。

  • マウスピース矯正:主として「傾斜移動」という、歯の頭(歯冠)を傾けて並べる方法です。
  • 本格的なワイヤー矯正:歯の根っこ(歯根)までを平行に移動させる「歯体移動」を行います。

歯も歯を支える骨も生きています。多くの場合、もともとのかみ合わせが悪い状態は、それなりに体が「この状態が一番良い」と判断してその状態にあります。ですからもともとの悪い歯の位置や方向には、悪いなりの意味があります。そんな歯を傾斜移動で動かして歯の方向を傾ける方法(傾斜移動)で並べても、大きな風の日に一時的に倒れた苗のようなもので、時間が経てば元の状態に戻ろうとします。急いで傾斜移動で動かそうとすればするほどその傾向は強くなります。

 また、傾斜移動だけで歯を動かそうとすれば、歯冠(歯の頭)だけが綺麗に並んでも、骨の中にある歯根の方向がバラバラでは、建物に例えれば「柱が斜めのまま建っている」状態です。機能的な話で言えば、歯や歯を支える歯周組織(歯槽骨や歯肉)が毎日かかる強い咀嚼(そしゃく)力に耐えられず、将来的に噛み合わせが崩れたり、歯周組織を痛めてしまう原因になります。

なぜ、当院の治療には「時間」がかかるのか

噛み合わせは、成長とともに10数年かけて完成する精密機械のようなものです。それを数ヶ月の無理な移動で終わらせようとすれば、生きている組織である歯周組織に大きな負担がかかり、強い後戻りやトラブルを引き起こしかねません。

当院の治療がマウスピース矯正よりも期間を要するのは、見た目だけでなく、「歯根の方向まで綺麗に揃えること(歯根のパラレリング)」を妥協なく行っているからです。このコントロールこそが、長持ちする健康な噛み合わせをつくるために不可欠なステップです。

※なお、日本矯正歯科学会の認定医のなかには、マウスピース矯正に様々な工夫を凝らし、歯体移動に近づける努力をされている先生方も一部いらっしゃいます。しかし、患者さん自身が出し入れする装置である以上、どうしても微細な「遊び」)、ワイヤーと同等の厳密なコントロールを行うのは極めて困難です。

力を負担するときのイメージもかなり異なります。かみ合わせは、よく建物に例えられますが、歯根の方向は柱に相当します。口の中は強い力がかかりますので、いつまでも使うためには柱はまっすぐの方がいいのです。次のような家をイメージするとわかりやすいかもしれません。

外見がおなじに見える家ですが

柱がもしかしたらこんなに違うかもしれません。

どちらが長持ちするかは明らかで、どちらに住みたいかといえば、それも明らかですよね?長く使うものほど、ちゃんとした柱の方向は必要になるのです。口の中の歯も同じことです。

だから歯根の方向は大切で、歯体移動が大切になるのです。歯並び、かみ合わせは見た目だけ治せばいいわけではないのです。そのためにはそれなりの時間がかかります。歯を支える骨の作り替えを生理的に起こす治療なのですから。

後悔しないための医院選びを

矯正治療の本質は、短い期間で見かけの歯並びを良くすることではなく、長い人生をともにする健康な噛み合わせを育てることです。

私は自分が特別な歯科医だとは思いませんが、患者さんの将来に責任を持てないような、いい加減な治療だけは絶対に選択したくないと考えています。

残念ながら、昨今は商業的なメリットだけを強調したトラブルの多いマウスピース矯正が流通しているのも事実です。どうか皆さんには、一生の健康を守るための「確かな目」を持って医院を選んでいただきたいと思います。少しでも迷われた際は、ぜひセカンドオピニオンを活用し、信頼できる矯正専門歯科医にご相談ください。