「小学生のうちに矯正治療を始めれば、一番早く、安く治ります」という宣伝を見かけたことがあるかもしれません。しかし、私たち矯正治療を専門とする歯科医師から見ると、この表現には誤解を招く恐れがあります。実際に、日本臨床矯正歯科医会などの専門団体からも、過大な広告に対する注意喚起が出されています。
では、なぜこのような広告が増えているのでしょうか。背景には、歯科業界における経営コンサルティングの活性化があります。近年、少子化などを背景に歯科医院の競争が激しくなる中、新たな自費診療の柱として「子供の矯正」が注目されるようになりました。
その中で生まれたのが「予防矯正」という言葉です。これは学術用語ではなく、いわゆる造語です。「将来、高額な矯正治療をしなくて済むように、子供のうちに装置を入れて悪い癖をなくしましょう」というキャッチコピーとともに、多くの歯科医院で導入されました。
しかし、この「予防矯正」には注意すべき点がいくつかあります。成長期の子供たちの状態は一人ひとり異なり、少しの歯並びの乱れ、場合によっては治療が必要がない患者さんであっても「予防矯正が必要」と診断されてしまうケースが少なくありません。
歯並びを悪くする原因(口呼吸や舌の癖など)を改善することは大切ですが、それが不正咬合(噛み合わせの乱れ)のすべての原因ではありません。また、子供の頃に治療(一期治療)を行ったからといって、将来的に大人になってからの治療(二期治療)が完全に不要になるという保証はありません。それどころか、症例によっては治療期間がトータルで長くなってしまうという研究報告もあります。
「小学生の矯正が一番早く、安く治る」という一律の表現は、医療として適切とは言えません。お子様の成長に合わせた最適な治療時期と方法は、精密検査をもとに判断する必要があります。
矯正専門の歯科医師として、患者様や保護者様が正しい情報をもとに治療を選択できるよう、大切な事実をお伝えいたしました。