出張矯正歯科医の矯正治療と専門矯正歯科医院の治療の違い

 正直、あまり触れたく話の一つなのですが、私たち矯正歯科医の一般的な立場を書いておきます。というのも、
「普通の歯科医院でやっている、出張で来る先生の矯正治療と、矯正専門の矯正歯科医院の治療とどちらを
受ければよいのでしょう?」という質問を私自身が受けることが増えてきたように感じるからです。
 矯正治療は歯を動かす治療です。簡単な歯を動かす実習は、歯科大学の6年間のカリキュラムの中の(ほんの)
一部に組み込まれていて、そういう意味では私たちは歯を動かすことは全ての歯科医が学んでいると言えます。
しかし、成長を通じて全部の歯を並べる矯正治療をできるのは、通常、大学の矯正学教室という部署で矯正学と
矯正治療を患者さんの治療を通じて5年以上学んだ歯科医師だけです(5年間というのは、日本矯正歯科学会の
認定取得の最低研修年限です)。
 日本矯正歯科学会の認定医を取得した矯正歯科医は、かなりの人たちが「将来、矯正専門で開業したい」と
考えています。しかし、今現在矯正専門医で開業するのは極めて困難だと考えられています。一つの理由は
「自分のところでも矯正治療をやっている」という矯正専門以外の歯科医院が巷にはあふれているからです。
 矯正学教室に在籍したことがなくても矯正治療に興味をもって、いろいろな矯正治療の研修会に参加して、全ての
歯を動かす一般歯科医の先生も少数ですがいらっしゃいます。その結果が問題ないものならば、そういった先生方
が行われる治療も矯正治療です。
 一方で、「自分では矯正治療はできないから、矯正学教室で矯正治療を学んだ先生に来てもらって、月に1度か
2度、うちの医院でも矯正治療をやろう」というのがよくある一般歯科医の先生方の医院で行われる矯正治療です。
矯正治療は月に1度通えばなんとか最低限の治療はできますので、そういった治療でも矯正歯科医師の治療は
受けることができます。ただし、その治療は出張に行かれる先生の、生活の糧を得るための「アルバイト」の歯科治療
になります。
 私もそれなりに開業するまで(または開業した後も)、いくつかの一般歯科の先生方の矯正治療の出張にいきま
した。それなりに自分ができる限りのことを限られた時間内にしたつもりですが、「私は出張の矯正歯科で、開業した
現在と同じ矯正治療をしました」などとは、口が裂けても言えません。時間が限られた出張の矯正歯科の治療では
限られたことしかできないのです。このことは本当に、矯正の出張に行っている時に辛かったことです。(実のところ、
出張に行っている矯正歯科の先生が、大学からの派遣であれ、矯正専門の開業の先生であれ、自分のいつも行って
いる大学での治療や矯正専門医院と同じ治療はできないのです。理由は時間がないからです。「いや、そんなことは
ない!自分は自分が普段自分の診療室でやっているのとまったく同じ治療をしている!」という矯正歯科医がいたら、
嘘をついているか、治療自体に何かの誤りがある方かのどちらかだと思います。
 矯正歯科医院の目的は、最低限の矯正治療をすることではなくて、良い矯正治療を提供するとともに歯の大切さ、
かみ合わせの大切さ、普段の生活の仕方の大切さを生涯を通じて考える感覚を患者さんに持ってもらうことだと考えて
います。
 「出張の矯正歯科の先生の矯正治療と、矯正専門医の医院での矯正治療は、どうやら違うらしい」と少し感じて頂け
たら幸いです。



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