医院出版物:30回噛んで食べたいシリーズ 


 不正咬合をはじめとして、虫歯や歯周病、顎関節症等、口腔内やその周囲の病気の原因の、かなりの部分が
食生活の変化やそれに伴う咀嚼回数が少なくなったことに由来すると考えている歯科医にとって、現代の日本人に、
せめて戦前のころの日本人の噛む回数に近づくように、食事の時に一口30回噛む習慣を身につけてもらうことは悲願です。

 私もそういった矯正歯科医の一人です。

ところが、一口に、一口30回噛みましょうといったところで、これが極めて指導の難しい生活習慣です。
「粗食のすすめ」で著名な幕内秀夫先生は、「特別なことをしなくても、和食にすれば皆たくさんかむはず」と、
以前に私が出席した講習会でお話をされました。確かにそうかもしれません。和食はすなわち魚や野菜が
多い食事です。しっかり野菜や魚を噛もうとすれば、自然に噛む回数は増えそうです。
しかし、なかなか現実には和食だけで足りない部分も出てきます。日本人のことわざには、「早飯早糞芸の道」
などと、早食いを推奨することわざもありますし、汁かけご飯やお茶づけも、ほとんど噛まないでたべられる和食
ではあります。日本人の文化の中に、早食い文化というものもすりこまれていると私は考えています。
「噛むことに集中できるプラスアルファが何か必要だ」とずっと考えつづけてきました。
普段たくさんかむ回数が多い人ほど成績が良かったり、朝食を食べる子供の方が成績がよかったりと言う話は
良く患者さんにする話ですが、そのときは理解してくれても、いざ家で食事をする段になれば、忘れてしまいます。
食べる時に30回数えて食べるのも、実際にはそれを強いられれば苦痛でしょう。頭で毎回30回数えるのは無味乾燥です。
「だるまさんがころんんだを頭の中で3回となえながら噛みなさい」と言ってみたところでやはり同じ事で、
言っているほうがむなしくなります。考えに考えた挙句に考え付いたのが、
「30回噛みながら勉強ができる教材を作ってみよう!」ということでした。まずは漢字を覚えながらで噛んで
もらうことにしました。自分が小学生だったこと、漢字が苦手だったこともありますし、まずは漢字を覚えてしまえば、
その他の国語の勉強に余裕ができ、子供たちのためにもなるだろうと考えたからです。

矯正歯科医だからできたこと
 今回の教材で特に気を配ったのは、「どうやって直感的に子供たちの注意をひく教材を作るか」でした。
かわいい絵は必須だと考えました。ここで、幸いなことに、自分が矯正歯科医であることが役に立ちました。
 私たち矯正歯科医は、実は顔の形のエキスパートです。なぜかといえば、矯正治療は歯を動かせばいいと
いう話ではなくて、歯が動くための土台になっている歯を支える骨(歯槽骨)と、さらにそれを支える上下顎骨、
そして上下顎骨につながる頭蓋骨の位置や形や各々のパーツのバランスを十分に把握し、分析しなければ
いけません(セファロ分析と言います)。その上で歯を動かしたり顎に力を与えたりすることがはじめて可能になります。
ですから私たちは毎日患者さんの骨の形をなぞり書き(トレースと言います)し、骨の上に乗っている顔の形をトレースします。
ですから私たちの手は、ほぼあらゆる横顔の形を記憶しているようです。記憶しているようですというのは、つい最近、
顔の落書きをするまでは、そのことに私自身気がついていませんでした。しかし、落書きをはじめると、「あれれ?
なんでこんな顔が描けるのかな?」と不思議に思うほど、いかにもありそうな顔が描けました。顔が描けるということは
非常に幸運でした。なぜかと言えば人の記憶の中で、顔を覚える記憶ほど、確かな記憶はないと考えるからです。
 人の顔には他の動物に例を見ないほどたくさんの表情筋が発達し、他の動物に例を見ないほどたくさんの感情を
表現できます。そして、個体の識別能力も、顔の形、パーツのバランスが元になっています。テレビの犯罪者が必死に
顔を隠すのも、少年犯罪者の顔写真が掲載されないのも、社会が顔の個体識別能力が極めて高いことを認識している
表れでしょう。
 ですから、子供たちに覚えてもらいたいことは、すべて顔と関連させるとわかりやすいと考えました。ですから今回の教材は、
顔の落書きを多用しました。
 ところで、こう書くと、漫画で作った教材がすべて覚えやすいということになりそうですが、実はそうではないようです。
漫画を利用して作った学習教材は、探せばけっこうありますが、ほとんどが面白くなく、失敗しているように感じます。
なぜかと言えば絵がかわいくないからです。幸い私はどうやらかわいい絵が描けたようです。これも幸運なことでした。

咀嚼することで高まる記憶力
 今回の教材の第一の目的は子供たちに噛む習慣をつけてもらうことです。一口に噛むといってもいろいろな噛むがあります。
悪い姿勢であまりお腹がすいていないときに噛んでも力ない、だらしないものになりますし、良い姿勢でお腹がすいている
ときに噛むとしっかりした、力強いものになります。今回の教材では、子供たちに、噛むことに力強さを持ってもらいたいと
考えています。つまり、「しっかり噛むと脳の血行がその分良くなり、交感神経もより刺激して記憶力が増すのだ」と考えて、
一生懸命噛んでもらいたいと考えています。噛むことに関する効用は日本咀嚼学会や学校食事研究会のHP、書籍等も
参考にしてください。


リズムで覚える
 今回気を配ったのは、30回噛むための文言を、リズム良くするということでした。明治大学教授の齊藤孝先生は
日本人の文化は型の文化だと言われています。私もそう思います。特に記憶においてはリズムがとても大事だと思います。
今回注目したのは、日本人古来の俳句のリズム、5,7のリズムを中心にすえることを心がけました。リズム良くしっかり
噛んでもらいたいし、食べていないときは齊藤先生にならって、声に出して読むのもいいと思います。

以上のような考えで吉野矯正歯科の本、「30回噛みたい」シリーズをはじめたいと思います。
30回噛みながら漢字を覚えるための
「30回かんで食べたい 小一〜六漢字」を5年かけて作りました。
楽しい漢字の学習のための本としては日本一の本になっていると自負しております。
一人でも多くの小学生が、この本で笑い、覚え、そして30回噛んでもらえることを願っています。
アニメーションも作成中ですのでこちらもご覧ください。

(この本は書店では販売しておりません。吉野矯正歯科窓口でお買い求めください。)







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